母親への助言 「返済はしないように」
司法書士は、母親に対して、内原さんの借金を絶対に肩代わりして返済しないようにアドバイスしました。その理由は母親にも経済的余裕がないだけでなく、母親には内原さんの借金について、法的に何ら返済義務がないことと、母親が少しでも返済してしまうと、後日、内原さんが消滅時効の主張(時効援用)ができなくなる可能性があったからです。
保護司さんからの助言
内原さんは、57歳の時に刑期を終え、就職先も見つかり、社会復帰を果たしました。生活面等の指導を受けている保護司の方から、債権者による給料の差し押さえを受けるなど、勤務先からの信用喪失等を心配され、借金問題の解決を強く勧められ、再度、司法書士のもとを訪れました。
時効援用の手続き~消滅時効の主張~
借金の多くは時効の手続きをとれば支払いを免れる可能性が高いものの、1社については過去に裁判を起こされ判決が確定しています。しかし、判決確定から10年を経過している様子であったため、司法書士は、内原さんを代理して全ての借金について時効援用の手続きをとりました。
借金は消えていなかった
裁判を起こされていた1社は、元々大手の貸金業者でしたが、経営破綻して債務が別の会社に移っています。その会社の代理人である弁護士法人の担当の方から連絡があり、「差押えをしているので時効は更新(中断)されている」、とのことでした(民法148条1項1号、2項)。
弁護士法人から、差押えに関する裁判所の資料を提示してもらい、内原さんに確認したところ、存在すら忘れていたゆうちょ銀行の口座から、残高わずか200円余りが差押えられていたことが判明しました。
裁判確定後、10年経過する直前のことでしたので、時効の援用はできなくなりました。
85万の借金が500万円以上に
この借金は、内原さんがおじの会社に勤めていた37歳頃の借り入れであり、100万円の限度額で2~3年程度取引をしたあと、返済できなくなってしまったものです。内原さん不在のまま行われた貸金請求訴訟の判決で、元金約85万円の支払いを命じられています。その借金が、今では遅延損害金を含めて500万円以上に膨らんでしまっており、到底、内原さんの経済力では返済不可能です。内原さんは、この1社について自己破産の申立てをすることを決意しました。
なぜか「裁量免責」に…
司法書士は、内原さんの借金の原因は、「おじの会社に勤めていた時のおじへの援助や給料未払いによる生活費のためのものである」と破産申立書に記載し裁判所に理解を求めました。しかし、裁判所が出した結論は「裁量免責」でした。裁量免責とは、簡単に言うと、「免責不許可事由があって、本来なら免責は出せないけど、あなたの色々な事情を考慮して免責を認めてあげましょう。」という裁判所の判断です。
裁量免責も、通常の免責と同様の効果があり借金の免除を受けることになりますから、内原さんにとって不利になることはありません。しかし、裁量免責だったことに司法書士はとても驚きました。裁量免責ということは、借り入れに免責不許可事由があるということで、今回のケースでは、借り入れの原因は違法な薬物の購入であり、「浪費」と裁判所が認定したと思われるからです。
内原さんは、元々複数の消費者金融などから借り入れがあり、そのうち時効が完成しなかった1社についてのみ自己破産の申し立てをしています。したがって、破産手続きは、最低限この1社について借り入れした経緯や理由を説明すればよいのですが、正直なところ、内原さんに聞いても全く覚えていません。20年くらい前のことですし、色々なことがあり混乱していた時期でもありますので、記憶がないのも無理からぬことだと思います。
せめて、例えば預貯金通帳や病院の領収証など、何らかの当時の資料が残されていれば、借り入れ原因の手掛かりになることがありますが、何一つそのような資料は残されていませんでした。
上述の破産申立書に記載した「給料未払い等による生活費のため」、という借り入れの理由は、司法書士が推測で下書きしたものを、内原さんに見てもらい、「たぶん、そんな感じです」との了承を得て正式に陳述書に記載したものですが、その説明は、裁判所には信用されなかったということになります。
それが何故なのか、司法書士には不思議でならず、「裁判所が内原さんの刑事事件の記録を取り寄せて内容を確認したのか」など、色々と想像してしまいました。
※裁判所の決定には判決と異なり理由は記載されません。
裁量免責の理由は…
しかし、例えば、仮にですが、借り入れの原因が違法薬物の購入など不誠実なものであった場合、それに関わっていた内原さんの昔の良からぬ仲間たちが、内原さんが破産したことを嗅ぎ付け通常の免責を受けていたと知ったら、「裁判所に虚偽の事実を申述して不正に破産し免責を受けた」などと当時のことを蒸し返し、再度、トラブルに巻き込まれるリスクがないとはいえません。
これが、裁量免責であれば、裁判所は、内原さんが不正な目的で借金したことを承知のうえで免責を与えているのであり、したがって、内原さんが破産したからといって、良からぬ連中から非難されるいわれはありません。
このように考え、「何とか内原さんに立ち直ってもらいたい」と考えた裁判官による「大岡裁き」だったのではないか、と考えるのは考えすぎでしょうか…
必死で家を守ったご両親
おじと内原さんの父親は兄弟で、父親はおじから懇願され、おじの街金からの借り入れについて自宅に担保を付ける「物上保証」をしてしまいました。おじがその借金を返済したのはほんの数か月であり、以後は父親が返済をし、父親の死亡後は母親が必死に働いて完済しました。700万円程度の借り入れでしたが、利息が高く、完済まで15年かかりました。
母親は80歳を過ぎても元気でおられますが、仮に、内原さんが破産する前に母親が亡くなっていた場合、その家族構成などから内原さんは破産することができず、自宅を売却処分して借金を全額返すことになっていたと思います。
内原さんは、今後も依存症と戦っていかなければなりませんが、両親が命懸けで守ってくれた自宅と、母親のことを、大切にしてほしいと心から願っています。

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